曼珠沙華
朝、お前が可憐に見える時
夕方、お前が不気味に見える時
何故、お前は朝夕でそんなに態度を変えるのだい
不気味に見えるお前は大嫌いだ
だから、夕方の散歩は、お前にそっぽを向いて歩くのさ
朝日を浴びたお前なら微笑みかけてやりたいほどだが
虫
お前は、何故俺の邪魔をするのだい
お前をこの鉛筆で潰してやろうか
お前達の世界にも試験があるのか
俺は、明日の試験勉強をしているのだ
さあ、邪魔をせずに何処かへ行ってくれ
そして、二度と人の前になんか出てくるな
お前も生きんが為に努力するのだ
自然を相手に!
雑 草
長閑な春の昼下がり
空の何処かで雲雀がさえずり
何も作物を植えていない畑には
春の陽を浴びんと
我も我もと言わんばかりに
青い芽を吹き出した雑草達
また、新しいランドセルの行列に会う季節となった
彼らの希望に満ちた素直な瞳に
何気なく微笑みかける
「いつまでも、その眼差しを忘れぬように」と
そして、「いつまでも、雑草のように強くあれ」と
夏の芸術
アパートの窓から涼しい風が入ってきます
ちょっとした高台の上に入道雲が
「俺の季節だ」と言わんばかりに
もくもくと上がっています
あたかも水色の図画紙の上に
入道雲の白と灰色の織りなす
巨大な芸術のようです
アパートの周りは、緑一色の田圃
まだまだ弱々しい稲と稲の擦り合う音が
より一層涼しさを増してくれる感じです
雲
二頭の獅子が駆けっこをしていました
それは、空に焼き付けられた黒い影
なかなか差の縮まらない彼等
いつの間にか、二匹のネズミと一匹のワニに
なっていました
そんな涼しい、夏の夕暮れの空でした
巴 里
私は巴里を見たことはありません
しかし、部屋からの夕暮れの光景を見るたびに
巴里への郷愁じみたものを感じるのです
私は巴里を見たことは無いのです
美
一人の青年が傘もささずに
雨の中を歩いていました
彼はずぶ濡れなのです
他の人は皆傘をさして歩いていました
しかし、不思議と気の毒には感じなかったのです
それどころか
その光景が、優雅にさえ思えてきたのです
虚しき里
丘の緑、青い空、立ち並ぶ家々
日本晴れの殿山の美しさを
いつかキャンバスに描いて見せよう
夕陽に照らし出されたその光景は
巴里への郷愁じみたものに繋がる
何故か分からない
巴里など見たことも無いのに
季節のせいだろうか
それとも故郷へのノスタルジアなのだろうか
小雨に煙る殿山もやはり巴里
しかし、そんな殿山は嫌いです
我の憂愁を誘い
全てが絶望に追いやられる
何故、殿山が巴里なのだ
巴里って一体どんな街なのだ
問いかけて見ても何も返って来ない
ただ、虚しさだけが
我が心を吹き抜けて行く
丘
お前の着ていた草木は取り去られ
お前の上に通ずる道路が出来た
こんもりと茂った草木に纏われたお前も
今は、丸裸
これから、冬を迎えると言うのに寒いだろうなァ
お前をいつも窓から眺めているだけで
お前の上に何があるのか知らない
神社はあるのかい?
学校は?
八百屋は?
駄菓子屋は?
今度、暇になったとき
ゆっくりお前の上を散歩させてもらうよ
「今すぐ来い」だって?
ダメだよ、今は忙しいんだ
葱
五円で買った葱を手に持って
派出所の横にある葱畑の前を
赤面しながら通り過ぎた
沈みかけた秋の夕陽に
より一層赤みを増していただろうに
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